三越伊勢丹 TOKYO ART LOUNGE

NIHOMBASHI ART PHOTO EXHIBITION 2017
芸術写真の世界

京都に息吹く究極の「美のartisan」
〜京都 便利堂 コロタイプ印刷〜

京都。世界一の文化都市であると同時に、伝統のモノづくりの継承の街。その中心地である中京区に、とある【美のartisan集団】が存在している。

株式会社便利堂。明治20年(1887年)創業。
19世紀にヨーロッパで発明された「コロタイプ印刷」※1 を、殖産興業時代の京都にて導入。本家のヨーロッパにて商業用途が途絶えた現在、世界で唯一の技術継承の企業となっている。
オフセットやインクジェットといった「網点(ドット)」印刷とは異なる、滑らかな連続諧調表現・撮影ネガを正確に反映出来る製版技術・耐久保存性。
大量・速度生産主流の今、全ての作業を熟練の職人が手業で行う。その価値は単なる印刷物のみならず「作品」という表現が相応しい。

その比類なき技術は、長年日本の芸術文化領域に大きく寄与。2015年には「法隆寺金堂壁画ガラス乾板」が重要文化財に指定されている。※2
そして現在「アートフォト」の領域においても「コロタイプ印刷」は国内外のクリエイターから高い関心を集めている。

今回の「NIHOMBASHI ART PHOTO EXHIBITION 2017」において、便利堂の持つ「アートフォトとしての魅力」にフォーカスする。
それに際し、今回は京都市中京区の便利堂工房を訪問。代表取締役社長・鈴木巧氏、及びコロタイプ研究所 所長 マイスター・山本修氏にそれぞれお話を伺った。

手業による補正。作品のありのままの再現に妥協なく、極細の単位で臨む。

法隆寺金堂壁画・原寸大撮影のガラス乾板

アートフォトにおいてのコロタイプ印刷の位置づけ

「当社の創業当時は、幕末から明治初期の所謂 [職業写真家] から [アマチュア写真家] が台頭してくる時代。日本のアート写真の草創期です。その当時から、当社は写真コンベンションを実施し、入賞作品の写真集の発刊を行い、写真家に作品依頼をして、絵葉書の作成販売をしていました。往時からの写真家とのコラボレーションのDNAが、今も当社に引き継がれているのかもしれません。」

「また現代においては、デジタル全盛のなか、作品を表現する技法が逆に限られてくるなかで、古典印画技法への関心が高まっています。独特の表現力への、国内外の作家からの評価をいただいています。」

― 近年、その類稀な技術を生かし「Provoke」※3に代表される日本の[SHASIN]へのオマージュ作品として世に発信している。

「コロタイプと日本のアートフォトは同時に発展してきました。日本の写真家の評価は世界的に非常に高まっていますが、まだまだそれは一部のスター作家のみです。世界に対し、もっと日本のアートフォトを、日本でしか無い表現技法で知って貰いたい、というのがこの作品群への思いです。」

美術工房 京都便利堂 代表取締役社長 鈴木巧氏(左側)

― 伝統と継承。世界的にも貴重な美術的価値を有するコロタイプ技術を今後どの様に伝えていくか。

「2014年より [HARIBAN AWARD] という写真コンペンションを行っています。毎年、国内外から数百の応募を頂き、最優秀賞者には2週間、京都にて職人と作品制作を行い、毎春の [kyotographie] にて個展を開催する、というアートフォトへの協業です。」
※HARIBAN=玻璃版(コロタイプの旧称)

HARIBAN AWARD受賞者が京都・便利堂にて制作。

kyotographieにて展示(2017年・白沙村荘)

  • 世界でもここだけしか出来ないという希少性。
  • 且つ、それが日本の古都である京都である、という事。
  • 職人技・人の手によるものづくりへの再評価。

鈴木社長がおっしゃった内容は、日本の価値そのものに繋がっている。

続いて「日本の価値=職人」の目線での、コロタイプの魅力について伺った。

技の伝承 - 職人技としてのコロタイプ印刷について

「コロタイプ印刷は [撮影] [製版] [印刷] の3工程に大きく分かれます。
それぞれが非常に強い専門性を要し、習得にも時間と練習を要する職人の世界です。現在、20名の職人にて制作を行っています。」

美術工房 京都便利堂 コロタイプ研究所 所長 マイスター 山本修氏

撮影

被写体を4色のフィルターをかけて撮影。それぞれの色諧調が際立った数種類の大判ネガフィルムを作る。
撮影-現像の作業の多くは完全な暗室で実施。非常に高い錬度を要する。

製版

ネガフィルムに、感光材を含むゼラチンを塗布したガラス版を合わせ、紫外線を照射。フィルムを通過する光量に応じゼラチンが感光し、ネガそのものの画像がゼラチン面に凹凸に焼き付けられる。ネガ調整含めて全て熟練の手業。

印刷

製版で出来たガラス版を印刷機に装填し、職人が熟練の手捌きでインク顔料を塗布し印刷。

― 現在の印刷技術におけるコロタイプとは?

「オフセットの高速印刷・インクジェットの手軽さは素晴らしく、現代に欠かせないものです。それと同様にコロタイプの良さを知って頂き、それぞれの特徴を生かした使い方が共存していければいい、と考えています。」

「実は、世界にはまだコロタイプ印刷が残っているという情報があります。 商業用途は当社含め京都のみですが、個人作家が継承している事例などが報告されています。
2003年・2005年と [世界コロタイプ会議] というものが開催されました。
※第一回=2003年:ドイツライプツィヒにて開催・第二回=2005年:イギリスブリストルにて開催
以後暫く途絶えていますが、当社の [コロタイプ・アカデミー] が開設されれば、第三回目を京都便利堂で開催出来るかもしれません。
コロタイプがもっと伝播され、色々な方々が [我々の思いつかない事] をやって貰えれば、と思っています。今夏の日本橋三越での取組はその一環として捉えております。」

便利堂本社の「法隆寺金堂壁画」原寸大撮影乾板の印刷軸装。
美術商品部 石黒(170cm)との比較。この原寸大乾板が焼失後の壁画復興に大きく寄与。和紙に薄く印刷した下地を用い、前田青邨・安田靫彦・橋本明治・吉岡堅二らの日本を代表する精鋭画家達が彩色復元画を描いた。

今回の日本橋三越の企画では、上述した各作品の展示販売とあわせコロタイプ印刷の体験など「ものづくり」から学べる内容となっている。
FAPA(日本芸術写真協会)所属の魅力ある5ギャラリーの出展とあわせ「芸術写真の世界」を存分に楽しんで頂きたい。

※1
19世紀半ばにフランスにて勃興。顔料を用いた印画技法のひとつ。ゼラチンが塗布されたガラス版に被写像を感光させる。水を吸うと膨張/光を通すと硬化するゼラチンの特性を生かし、版に精細な被写体の凹凸をつけ、そこに顔料を刷り込んで印刷する。コロタイプのコロはギリシャ語のkolla=ゼラチンが語源。

※2
昭和10年(1935年)国家事業としての「法隆寺金堂壁画 原寸大撮影事業」を便利堂が実施。当時最高度の技術を用い、金堂内の12面363枚の原寸大撮影を敢行。昭和24年(1949年)に大火災が発生し壁画が全焼失してしまう。その復元に、大切に保管されていた便利堂のコロタイプ乾板が大きく寄与。国宝/世界遺産復元の功により、2015年に「法隆寺金堂壁画ガラス乾板」が重要文化財指定を受ける。

※3
中平卓馬・高梨豊・多木浩二・岡田隆彦らによって1968年に創刊された写真同人誌。当時の時代世相や閉塞感を写真を用いて破壊しようとした。写真史上非常に前衛的且つ重要な試み。サブタイトルは「思想のための挑発的資料」

NIHOMBASHI ART PHOTO EXHIBITION 2017

会期
2017年8月9日(水)〜14日(月)(最終日は午後6時閉場)
会場
日本橋三越本店 新館7階 ギャラリー

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