日本画はさらに進化する 石踊 達哉

画家、石踊達哉さんの絵を見ていると、日本は美術にとって特別な場所であり、その伝統が今も脈々と息づいていることを実感します。
この国を取り囲む海、動くものを瞬時にとらえ、それを線に凝縮させ表現するその波はいわゆる青海波という独特の表現で表されますが、そんな精緻で完結、象徴的、単一であるいは連続模様のかたちを美しいと思い、愛でるのも日本美術を楽しむ歓びです。わずかの手段で無限の広がりを伝えます。

日本では西洋のように自然を対立するもの、征服するものとしては見ません。自然と同化して生活を営み、四季折々のうつろいを愛しむもの。そうやって生きてきました。
歴史的に大陸から大きな影響を受け、取り入れ、ときにはあえてこの国ならではの文化を築くことを意図したり、鎖国によって独自の発展を見せたり、そんな揺り返しが豊かな発展を作り上げました。
また、日本にもともとあった自然を崇拝する考え方と大陸からの仏教が出会ったとき、とりわけ日本人は「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)」という考え方を大切にしてきました。「生きとし生けるものすべて仏になる」ということです。花一輪、虫一匹にも仏が宿る、生の歓びを見よということです。
そんな特別な場所、日本で独自に発達した日本画という領域。その教えを自らも語り、また日本画家として最も高めているのが石踊達哉さんです。

桃山時代から江戸時代に活躍した琳派が象徴性や装飾性を追求し、日本美術を華麗で意匠的に優れたものにまとめていきました。俵屋宗達や尾形光琳の功績です。
石踊さんはその歴史に学ぶのはもちろんのこと、それを現代に発展させています。たとえば、長年、パリにアトリエを構え、西洋美術にまで視野を広げたり、外から日本を見ることで、それまで気づかなかった日本の歴史、伝統の良さをあらためて見つめ直すことができたのだと言います。
日本の絵画が伝統的にもつ繊細さがより一層、愛おしさを増し、西洋、東洋の美術史の重みも感じる。歴史の中で日本美術を見つめ、そして自分の仕事を客観的に大胆に展開できたのです。

そして、石踊さんといえば、瀬戸内寂聴訳『源氏物語』の装幀画の仕事でもよく知られています。瀬戸内寂聴さんが70歳を超えてから源氏物語54帖の現代語訳に挑戦したとき、その伴走者として、挿画を描きあげるという壮大な仕事を引き受けたのでした。
依頼を受け、一瞬の迷いはあったものの、そもそもある偶然と数奇な縁から石踊さんの絵に出遭った寂聴さんが閃き、この人!との直々の指名を受けたことで取り組む決心をしたのだそうです。
考えたのは「源氏物語」という古典ゆえ、説明的な過剰表現を避けること。ましてや具体的な紙芝居風の絵には決してならないこと。平安貴族の恋愛そのものではなく、象徴性や暗示を強調する表現を追い求めること。
さらに「古典の伝統から、あえて斬新でそこに潜んでいる前衛を発見していけば、以後の創作の裾野が広がっていくかもしれない」という彼が抱いた画家としての欲も見過ごすことはできません。
いわゆる「瀬戸内源氏」は瀬戸内さんにとっても、石踊さんにとっても、ともに代表作のひとつになっています。1冊1万円ほどの『源氏物語絵詞(えことば)』は3万部という異例の売り上げを記録しました。その原画は国内だけでなく、フランス、ニースの美術館などでも展示されました。

石踊さんのアトリエをたずねると閑静な住宅地にあるコンクリート打ちっぱなしの現代建築でした。その中に茶室や中庭を持っているのが落ち着きます。現代美術家でもある照明デザイナー、インゴ・マウラーの照明を取り入れていました。現代の写真家の貴重なオリジナルプリントのコレクションも見せてくださったり。
古典から現代に至る時間の流れ、世界の中の日本という場所。そこで日本画を追求し続ける彼にふさわしい環境でした。
Photographs Kenta Aminaka
Text Yoshio Suzuki

画室には資料や蔵書が並び、色鮮やかな岩絵具が並ぶコーナーも。朝の5時6時から夜の9時まで食事時間以外は描き続ける。愛聴するCDをお供に。

日本画の道具や材料は自然のものから出来ている。金箔は竹筒に入れられ、瑪瑙(めのう)の棒で光らせる。筆は貴重な動物の毛を用い、日本画の絵の具はマラカイトなど鉱物・ニカワで固定。竹筒に金箔を入れ砂子(すなご)をまく。筆はコリンスキーの毛など。

花鳥風月を現代的な感覚で捉えた華麗な作風で、「平成の琳派」とも称される日本画家・石踊達哉氏。
氏のこれまでの代表作を収録した画集の配本完結を記念して、日本橋三越本店では約5年ぶりとなる新作展を開催します。
華やかな屏風作品など30余点を一堂に展観いたします。
三越伊勢丹TOKYO ART LOUNGEでは個展開催に先駆けて、出品予定の新作をご紹介いたします。

(ご予約にてお承りいたします。作品のお渡しは展覧会終了後になります。また当オンラインストアにてご予約いただき、店頭にてご成約済みとなっている場合がございます。あらかじめご了承ください。)



石踊達哉(いしおどり たつや) 略歴



1945年 旧満州(現中国東北部)に生まれる

1970年 東京藝術大学大学院修了

1996年 瀬戸内寂聴現代語訳『源氏物語』全10巻(講談社)全54帖の装幀画を担当する

2001年 パリ・ニース帰国記念展 石踊達哉の視線 古典と未来がつながる瞬間(日本橋三越本店、福岡三越)

2008年 『石踊達哉画集-咲く-』を出版(小学館)

2011年 三十三間堂本坊妙法院門跡瑞龍殿障壁画32面を制作

2014年 「3・11以降」時空を超えて-石踊達哉展at相国寺承天閣美術館

2016年 三越美術110周年記念 新春日本画巨匠展に出品(日本橋三越本店)