2016年2月に産声をあげた三越伊勢丹のオリジナルブランド、<SEKItoWA>。その舵取りを任されたのは、4名のメンズバイヤーたちでした。プロジェクトリーダーの飯塚裕之バイヤーは、ブランド創設の経緯について「オリジナルブランドは商品ありきで始まることが多いですが、この〈SEKItoWA〉は、商品はもちろん環境、PRなどを含めてブランディングに一貫した戦略を取り入れ、土台作りを徹底しました。その中で、バイヤー4名の目線がぴたりと一致したコンセプトが『掛け算と足し算』、つまり、『積と和』だったのです」と語ります。〈SEKItoWA〉のアイテムには、すべてにこのコンセプトが取り入れられていますが、その取り組みには国内でオンリーワンの技術を持つ伝統工芸の職人や長年信頼されるメーカーしか参加していません。そこには、唯一無二の存在の掛け合わせが、100年続くような普遍的な価値につながるという想いが込められているからです。日本の、本当のラグジュアリーブランドを目指す〈SEKItoWA〉の第一歩は、こうして始まりました。

雅 – Miyabi –

SEKItoWAは、「雅」と「いき」のふたつのラインから構成されています。京の宮廷、貴族文化から生まれた「雅」という概念と美的感性。桃山時代に茶の湯を通して形成された「わび」「さび」が、日本古来の文化のように思う方もいるかもしれませんが、日本にそもそもあった美意識は、「雅」という都会的で上品でありながら華やかであか抜けたものでした。十二単の重ねた色で様々な時候を表現した「襲(かさね)」のように、衣装そのものが表現であり、知的コミュニケーションのひとつだったともいえます。時代のなかで「雅」は、常に上流階級の文化としてありました。階級という概念がなくなった時代において、「雅」は生活からも離れた美という印象を持ってしまうかもしれません。SEKItoWAが提案する「雅」は、非日常的なものではなく、生活に彩りを加える花のような存在です。季節に花を飾り、過ぎていく時間と気候を楽しもうとする心。その心に寄り添うように、箔や西陣織などの卓越した技術と洗練された時代感覚でつくられた輝き続ける花は、みなさんの生活に華やかさのアクセントを加えます。

技術や素材が、背景ではなくモノそのものの存在感として表出する「雅」のアイテムたち。男性が優雅なライフスタイルを過ごすべく、日常を彩る商品たちで構成致しました。

黒に染まった絹糸に、漆で輝く黒漆糸を合わせて織ることで、表面に絶妙な陰影と表情をつくり出した川島織物セルコンによる生地。1843年に創業し、室内装飾織物で実績を積んだ二代目が、1889年のパリ万博に出品した壁掛で金賞を受賞。その後も様々な博覧会に出品し、織りの技術と緻密な図案で日本の織物文化を世界に示してきた川島織物(当時)は、帯の川島としても着物好きには知られた存在。国内外の目利きを相手に培ってきた経験や知識、技術、信頼は、正倉院宝物の復元という仕事を担うまでに繋がっています。一本一本、手で糸を通しながらつくられる陰影のある漆黒の生地は、品と美、柔らかさと強さを備えた存在感のある逸品です。

粋 – Iki –

「いき」を哲学的に定義付けた九鬼周造は、「いき」を諸外国に翻訳可能な言葉がない日本独自の言葉であり、概念だと言いました。ものごとや事情に精通し、価値や意味を主観的、客観的に理解しながらもひけらかさないこと。江戸の町人文化から生まれた文化「いき」は、ファッションに限らない現代の優れた技術を用い、洗練されていながらも抑制されたデザイン。見る人にとってはシンプルな装いながらも着る人にとっては背景と細部へのこだわりがある。モノそのものが全てを語り、表現や細部は気づく人が楽しみ、愛でるという、作り手と使い手の心理の表裏関係が「いき」を「いき」足らしめます。つまり、「いき」は自己満足のようでいてその逆です。他者への誤解を恐れず、自分の生き方に忠実でいながら、相手との相互コミュニケーションのなかにこそ喜びを見出す。藍染めや漆塗りなど、一見地味かもしれない方言技術がその実、その方法を持ってしか作り得ない魅力を付加していることに気づいたとき、それはすでに「いき」のはじまりかもしれません。

優れた技術が、モノの魅力のたしかな背景となって存在感をもつ「いき」のアイテムたち。武士の七つ道具になぞらえ、現代の男がこだわる必携の七つ道具と言えるようなモノを揃えました。ディティールへのこだわりがモノの価値と存在感を際立たせています。 ダイヤを散りばめたような輝きを見せ、「革の黒ダイヤ」とも呼ばれる黒桟革は、際立った存在感があります。表面的な魅力だけでなく強度にも優れており、かつては戦国時代の大将クラスの甲冑にも使われ、現在では剣道の道着の中でも最高級のものにのみ、その姿を見ることができます。皮革産業の街・姫路独自の“なめし”で国産黒毛和牛の皮を白くなめし、渋と鉄で黒の色に染め上げてから、漆を十数回に渡り繰り返し塗っていく。なめしで二ヶ月、漆で一ヶ月半、さらに漆の輝きを活かす工程を経てでき上がる黒桟革は、日本唯一の製造元である坂本商店で月に二十枚程度しかつくることができません。