部屋に盆栽を置く。毎日が少し、変わっていく。

平安時代に中国より伝わったとされる盆栽。上流階級のたしなみとして続いてきたものが、江戸時代に入って大衆へと花開いたと言われています。時を同じくして、江戸嘉永年間に初代が作栽を始めたのが、この清香園。現在は、世界の盆栽ファンにとって憧れの場所、埼玉県盆栽町にその居を構えています。盆栽界のトップランナーとして、一般のお客さまはもちろん、古くから著名人や政治家などの愛好家のパートナーとして、数々の作品を世に送り出してきました。

そんな清香園5代目の山田寅幸氏に、いま盆栽をおすすめしたい人をたずねると意外にも若いビジネスパーソンとのこと。その理由として、こんな答えが返ってきました。

「若い方々は、きっと忙しい日々を送っていると思います。そんな毎日の中で、ふと目に触れる場所に盆栽がある。それは、小さな瞬間かもしれませんが自然との対話になると思うんです。朝起きて水遣りをすることでも、仕事から帰って一杯やるときに眺めるでもいいんです。盆栽という自然を感じることで活力をもらったり、リラックスできるはずですから」

記憶に残る自然が、盆栽への第一歩。

とはいえ、初めての際はやはり盆栽に敷居の高さを感じ、尻込みしてしまう方もいらっしゃるそうです。ただ、山田氏は、「思い出の樹」があれば盆栽を始める資格は十分と語ります。

「私は「つくる」という手立てを持ったお陰で、こうして人々と出会い、語れるという有り難い特権を持ったのだとつくづく生きている冥加があるという感謝のおもいがますます強くなります。」

「私は幼い頃からけやきの樹が好きでして。ですから、今でもけやきを作栽するときにはより力が入りますね。好きな樹と向き合うからこそ、愛着を持って続けていける。誰もが持っている自然との記憶が、盆栽を始めるきっかけになるはずだと信じています」

さらに、気になる育て方や値段の疑問についても、こう語ってくれました。

「作栽がうまくいかない時は、私たち盆栽家に気軽に相談してください。売って終わりではなく、そこから長い時間ご一緒させていただくこと。それが我々のスタンスです。また値段に関しても、鉢が大きければ高いというものでもありませんからご安心を(笑)。だからこそ私は、初めての方にはある程度大きめの鉢をおすすめしています。なぜなら、樹の大きさは生命力そのもの。少し大きいほうがちょっとやそっとでは枯れたりしないんですよ」

現在、さまざまな場所で講演や展示会も行っているという山田氏。その言葉には、盆栽の正しいイメージを伝え、盆栽ファンを増やしたいという熱意が込められていました。

樹とともに年輪を重ねていく。
それが盆栽の醍醐味。

山田氏いわく、盆栽の価値は古く見えることと大木に見えることにあるそうです。それゆえ清香園では自然をお手本にすることを第一に、鉢の中に自生している樹と同じ樹形を表現することに重きを置いています。

「清香園で育てる盆栽は、形としての美しさだけを追求することはしません。もし形にこだわっていたら、もっとたくさん売れるのかも知れないのですが(笑)」

このように語れるのも、売って終わりというスタンスではなく、樹の価値を高めることに創業以来約160年取り組んできた歴史があればこそ。自分たちのスタイルを貫き続けた結果、2代、3代にわたって清香園の盆栽をお買い求めになるお客さまもいらっしゃるそうです。

「書や絵画などと違い、盆栽は生き物です。ですから、育てる人の成長とともに樹も成長し、変化していく。長く続けていらっしゃるお客さまは、その時間の流れや季節ごとに違った顔を見せる樹や花を楽しんでいらっしゃいますね。盆栽が初めての方には、こういった豊かな時間を過ごせることを知ってほしい。そして、その時間をより楽しむために私たちがいるのだと考えています。」

忙しい毎日だからこそ、一時の喜びではなく長い時間をかけて楽しむ趣味を持つこと。自分の成長や変化と同じ時を刻む命を愛でること。これこそ、現代を生きる人にとっての「粋」と言えるのではないでしょうか。

清香園5代目の山田寅幸氏。「一人でも多くの方に盆栽を楽しんでほしい」と語ります。

埼玉県盆栽町から、世界のお客さまに向けて日本の盆栽を発信しています。



個性あふれる樹々が所狭しと並ぶ庭内。中には、樹齢300年以上の樹も。